【参拝作法】
お祭りのお神輿

20160821_P5183008


●お神輿はお祭りのときの“神様の乗り物”
 神社の例祭では、社殿や境内での神事のほか、お神輿や山車が氏子町内に繰り出し、大いに盛り上がります。そもそも神輿とは何でしょう?

 神輿(みこし、しんよ)は御輿とも書き、いわばお祭りの際の“神様の乗り物”です。
 ふだんは神様は本殿にお鎮まりになっています。年に一度の例祭の日、神様が神社を出て、氏子町内を見て回っていただくのが「ご神幸(ごしんこう)」で、その祭典が「神幸祭(しんこうさい)」です。そのときにお乗りになるのがお神輿です。
 神様が氏子区域に渡ることは「渡御(とぎょ)」。
 また、お神輿や祭礼行列が決められたコースを回ることは「巡行(じゅんこう)」と言います。「お神輿の巡行コース図」などのように使います。

 神社が持っているお神輿は「本社神輿、神社神輿、宮神輿」と呼ばれ、一方、氏子町会が所有・管理している「町内神輿、町会神輿」と区別します。
 町内神輿は基本的に、自分の町内だけを回ります(町内巡行)。神社に複数の町会が所属する場合、全町会の神輿が勢揃いして巡行することを「連合渡御」と呼びます。

20160821_P1025256


 お神輿は、お祭り以外は神輿蔵や神輿庫に仕舞われています。お祭りの日程に合わせて蔵から出され、きれいに飾り付けて準備されます。そして出発前に、お神輿の中にご神体を入れ、神様を移す神事が行われます。こうして初めてお神輿は神聖なものとなるのです。
 いよいよ出発。お神輿が神社境内を出ることが宮出し(みやだし)です。お神輿は町内を巡り、「御旅所(おたびしょ)」に止まります。これは「御仮屋」ともいい、担ぎ手の休憩所です。お祭りによってはひと晩〜数日、御旅所にとどまることがあります。
 そして、再び神社に戻られるのが「還御(かんぎょ)」で、お神輿が境内に入ることを「宮入り(みやいり)」と呼びます。

 例祭のときのお神輿には神様が乗っていらっしゃいます。2階の窓など高い場所から見学すると、お神輿を上から見下ろすことになり、本来は神様に対して失礼な行為です。
 神聖なものですから、他の町のお祭りに行ったとき、勝手にお神輿に触らないようにしましょう。写真を撮るときも、氏子の方に「写真を撮らせてください」とひと言かけてから撮るといいでしょう。

 お神輿は一人では絶対担げません。大人数の人たちが息を合わせ、足並みを揃えるからきれいに担げるのです。担ぎ手は汗をかき、だんだん高揚してきます。お神輿に限らず、踊りやお囃子などの熱狂で、ある種のトランス状態になるのは、神様と一体化した証なのかもしれません。神様も喜んでいる。だから人々はお祭りやお神輿に魅了されるのでしょう。


●造りも担ぎ方もさまざまなお神輿
 その昔、天皇の正式な乗り物は、鳳凰の飾り物が付いた輿(こし)で、鳳輦(ほうれん)と言いました。平安時代以降、それが神様の乗り物として用いられ、「お神輿」と呼ばれるようになったそうです。
 
 一般に多く見られるお神輿の胴は、神社の社殿の形をしています。屋根の上には鳳凰の飾り物が立ち、周囲は鈴、彫刻などで飾られて、鳥居まで付いています。胴の扉が開き、中にご神体を入れられる仕組みです。
 胴は台座に固定され、台座に取り付けた担ぎ棒を肩に担いで移動します。
 社殿型以外にも、人形を置いたもの、樽を置いたもの(樽神輿)などさまざまな形があります。

 日本で一番大きなお神輿は、東京都の富岡八幡宮の「御本社一の宮神輿」と言われています。関東大震災で焼失した宮神輿を1991年に復活させたものです。台輪幅1m51cm、屋根幅2m89cm、高さ4m39cm、重さ約4.5トン! 飾り物にダイヤやルビーなどの宝石が使用され、豪華さも日本一。ただ、あまりに重すぎて、ふだんの例祭で担がれることはありません。参道の神輿庫に展示されているので、いつでも見学できます。

20160821_P7048329


 担ぎ方、掛け声、渡御の仕方、衣裳なども、その地域やお祭りによって異なります。掛け声は「わっしょい」が全国的に多いようですが、特別な決まりはありません。

 担ぎ方もいろいろです。祭礼行列の中で静かに担いで運ぶスタイル、逆にお神輿をわざと揺らす方法もあります。お神輿を激しく揺らすことを「魂振り(たまふり)」と言います。お神輿を激しく動かすことで神様に喜んでもらったり、神威を高める意味があるそうです。
 これがさらに激しくなると、お神輿同士をぶつけ合ったり、投げたり落として壊す奇祭まであります。

 富岡八幡宮(東京都江東区)の例祭「深川八幡祭り」は江戸三大祭の一つに数えられていますが、別名が「水掛け祭」。本祭りの連合渡御では、担ぎ手や神輿目がけて清めの水が浴びせられ、見る人まで濡れてしまいます。
 海や川にまつわる神社の場合、お神輿を船に乗せて巡行する船渡御(ふなとぎょ)が行われることも。漁港がある町や島のほか、大阪天満宮の天神祭が有名です。
 地域によってはお神輿を担いで、そのまま海や川に入るお祭りを見かけます。これは神輿を清めたり厄払いするものです。

 ちなみに、お寺でも御輿を担ぐところがあります。昔の神仏習合の名残で、例えば成田山新勝寺の成田祇園祭などがそうです。

 お神輿はその地域の歴史や風土、神社の性格を色濃く反映します。それぞれに個性があるのが楽しいところです。

20160821_P5147099


●お神輿は誰でも買える?
 さて、お神輿は特別なものですが、どこから入手するのでしょう? 実はお神輿を製造したり修理する専門の会社が存在します。

 有名どころでは、浅草にある宮本卯之助商店。創業はなんと文久元年(1861年)で、お神輿のほか、太鼓、祭礼具などの製造・販売・修理を行っています。三社祭の現在の本社神輿を作ったのも宮本卯之助商店です。

株式会社宮本卯之助商店


 検索してみると、意外に全国あちこちに神輿製造を手がける会社がありました。
 価格は大きさ、材質、装飾の内容などによって異なりますが、大人神輿本体で200万〜300万円ぐらいのようです。上はいくらでも豪華にでき、キリがありません。

 お神輿は高価なものであり、細かい装飾や金具がたくさん付いています。深川八幡祭りのように水をかけると、後の手入れが大変で痛みも早くなります。そのため、一般の町会では(人にはかけても)お神輿には水をかけないよう注意しているところも多いです。また、喧嘩祭りのように壊れるのが前提の場合は、それに見合った造りになっています。

 とはいえ、誰でも購入は可能で、店舗の装飾品として買う人もいるようです。
 言うまでもなく、買えるのはあくまで本体だけであり、神社にお願いして神様を入れていただかなければ、「ただの箱」です。お神輿を巡行するには担ぎ手がいなければできませんし、そのほかにもさまざまな用具や人員などを必要とします。一般道で担ぐには警察の道路使用許可も取らないといけません。
 こうしてみるとお祭りでお神輿を担ぐのは大変なことですね。